金木犀と土とブルガリ

おはよう。こんにちは。こんばんは。ハマです。
最近、男性シンガーソングライター瑛人さんの「香水」という楽曲をカバーしている動画が様々なプラットフォーム上でよく見かけます。
それも年齢層がかなり若い人たちが歌っているので、
最近の若い人はどんなものを聴くのだろうと興味本位で私も聴いてみました。

記憶と香り

楽曲自体も独特のリズム感が心地よく感じましたが、私が注目したのは歌詞の内容です。
香水の香りが過去の経験を呼び起こして、どことなく切なくさせられる
というような内容の歌詞に対してすごく共感しました。

その香りがきっかけとなり、その匂いを感じていた時の記憶が鮮明に蘇ることがあります。
太陽がだいぶ傾いて、後ろから夜が近づいても蒸すような暑さを感じた夏の日。
その時に皮膚を横切った、生温かい風の感覚も。
アスファルトを踏みしめた時に足から伝わる振動も。
鬱蒼と茂る森から聞こえてくる虫たちのキリキリとした高い声も。
一緒の帰り道にした、くだらない話の内容と話をしていた友人の顔も。
ふっと脳から押し出されるように思い出す瞬間があります。

記憶のトリガー

記憶にはいくつか種類があります。(ここでは”長期記憶”を”記憶”と記載します)
その中でも個人的な経験の記憶、いわゆるエピソード記憶は長期にわたって人間の脳に残ります。
それはいわゆる勉強のように目や耳だけでの記憶と違い、”体験”は各感覚系の受容器すべてを使った記憶です。
一般的に、一つの感覚器官だけではなく、複数の感覚器官を通した経験は記憶に残りやすいと言われています。

また、記憶を思い出すためにはトリガーになるものが必要です。
(フックとも呼べるかもしれません。)
ある人はその光景だったり、音楽だったり、匂いだったり、ある言葉やある食感、触感など様々なものがあります。
あるいはある怒りやある悲しみなどの感情もトリガーになったりします。

そのトリガーをきっかけに様々な情報が脳から引っ張り出されるわけです。
その時に感じていたことや、感覚、音声、映像というあらゆる情報が。
記憶は単純な文字列やシーンのバックアップ情報というわけではなく、
知覚された信号が複雑に絡み合った情報の集合体なのです。

最も記憶に残りやすい感覚器官

五感の中で最も記憶に残りやすいのは「匂い」であると言われています。
つまり、それは最も記憶のトリガーになりやすいということです。
(今は5系統ではなく、8系統を挙げるのが一般的らしいですね。)
ある特定の香りをトリガーとして、それにまつわる過去の記憶が呼び覚まされる心理現象を「プルースト現象」あるいは「プルースト効果」と言います。
元はフランスの作家「マルセル・プルースト」の「失われた時を求めて」のあるワンシーンからきています。
(様々な学術的研究がされているので、論文も見てみてください)
この現象が起こる背景として、嗅覚は他の感覚器官と異なったプロセスで脳に情報を渡しているというところが挙げられます。
嗅覚は他の感覚器官と異なり視床を通らず、嗅球と呼ばれる分析器官に匂いの情報を渡します。
そのあと、直接、扁桃体・海馬に情報を受け渡すわけです。
この扁桃体と海馬は記憶や感情を司る器官ですね。そして、生命を維持するための行動や本能行動、情動行動に寄与しています。
つまり、嗅覚は他の感覚器官よりも感情や記憶を呼び起こしやすいのでは、と言われています。
(私は大学時代、心理学を専攻していたのですが、そんなことを教授が仰られていたことを記憶してます)

smells like teen sprit

不思議なのですが、大人になった今も色々な体験をしているはずなのに、
匂いから呼び起こされる記憶っていつも少年、青年時代、つまり若い頃の記憶なのです。

学校から帰る際に香った金木犀も
雨が降る前に漂ってきた土の匂いも
高校時代に恋したあの人がつけていたブルガリの香水も

この年になっても、その匂いを感じると、どこか懐かしい感覚になります。
ノスタルジックを感じさせるのはいつだって”匂い”なんです。
年齢を重ねれば重ねるほど目や耳で体験したことよりも
嗅覚を通して紐づいた体験の方が鮮明に思い出されるような気がします。

皆さんはどんな懐かしい記憶がありますか?
その時どのような香りがしましたか?

今の若い世代の人たちもいつかきっと
その「香り」から何か懐かしい記憶を思い出すのでしょう。